「いたたたたた・・・」
 道太郎は目を覚まし辺りを見回すと、そこは木が覆い茂る森が広がっていた。
「ここは?」
「ミルド国のネイ地区。道太郎に会わせたい方がいる場所だよ」
 ラルはさっきまでとは口調を変え、落ち着いたように話した。
「道太郎を何も説明なしで連れてきちゃったのは悪いと思っている。けど」
「けど、なんだ?」
「今は言われるとおりに動いて欲しい。理由は後で全部わかるから」
 道太郎はラルの顔を見ていたが、そらして溜め息をついた。
「・・・で、どこにいけばい」
「シッ」
 険悪な表情で道太郎を茂みに隠す。道太郎は小枝が身体に当たり、思わず声を出してしまった。
「シッ!人がいる。良い人か悪い人どうか見るから静かにしてて」
 ラルは気配があったほうをじっと睨みつける。道太郎からは葉で見えないが、何かが近づいてくるようだ。
「もういいよ♪」
 一気に空気が晴れる。道太郎は茂みから少し身体を出す。
「あの人はクリス。この地区で最も地位が高い人で、とても良い人だよ♪」
 ラルはいつもの笑顔に戻っている。
「クリスとかいうやつは知り合いか?」
 道太郎の発言にピクっと反応し、こっちを向くと、
「あの方はね、500年前にこの地の悪政に苦しむ民を救った救世主なんだ!すごい力の持ち主で、あの人に敵う者なんていないよ。だ・か・ら「やつ」なんて言っちゃダメだよ」
「はいはい・・・って500年?!」
「そう。なんたってあの方はエルフだから♪普通の人間の何百倍の寿命があるんだよ」
「ハハハ・・・普通のやつはいないのかよ」
 呆れて物も言えない。そんな態度を道太郎はとった矢先、
「“普通”じゃなくて、すいませんでしたね」
「!!」
 いつの間にか目の前には純白のドレスを着た女性が立っている。近づいてくる気配を感じ取れなかった道太郎は驚きのあまり後ろに引っくり返ってしまった。。
「クリス様〜。僕、やりましたよ♪」
 幸せそうな表情のラルはクリスの腕の中。撫でてもらっていた。道太郎のことはおかまいなしに。
「貴方が道太郎さんですよね」
 ボロボロになりながら、なんとか
「あ・・・あぁ、そうだ。あなたは?」
 撫でていた手を離すと、ラルを道太郎の隣に座らせ、
「私はクリス。ようこそミルド国ネイ地区へ。歓迎致します」
 その言葉に、周りの木々たちはおろかラルまで聞き入っている。