「クリス様、お戻りください。クリス様!」
 純白のシンプルなドレスに身を包んだクリスは、真夜中に外へ出ようとしていた。
「ルーベル、それはできません。先ほど神の声が聞こえました。今すぐ行けと」
「あなたはご自分の身の上をご承知なのですか?困るのはクリス様なのですよ」
 呆れたようにクリスの部下の一人、ルーベルは言った。
「わかっています。でもあなたも分かっているでしょう。このミルド国が危機にあることを」
「ですが、それと何の関係が」
 訳が分からずルーベルは問うたが時はすでに遅し。そこにはルーベルの他に誰もいず、クリスの決心は固い。
「神が仰られたことは私たちへの助言だということです」
「ならば私がお供を!」
 ルーベルの言葉を聞かないまま、純白は暗闇の中に溶け込む。白は黒に勝てることなく、すぐに見えなくなってしまった。
「クリス様・・・」
 心から心配する人がいるのを知ってか知らずか、クリスは山道を駆けていった。