「そこのお兄さん」
 俺は驚きつつ、声がした方を振り返った。そこには小さな少女が立っている。歳は7、8くらいで黒髪のおかっぱ頭。黒い浴衣を着ている。
「これ」
「え?」
 少女の手には風呂敷に包まれた長い何かが握られていた。
「あげる、もらえ」
 体に押し付けるように渡してきたので受け取ると、少女はいなくなっていた。恐る恐る風呂敷を開けてみると、鞘に入った刀が入っていた。
「これは」
 持っているだけでわかる。この刀から何かが発せられているのだ。ただの刀ではないと直感したと同時に、さっきの少女はなぜ俺に預けたのかと疑問に思った。突っ立っていても埒が明かないので、家に帰って寝ることにした道太郎は、刀をちゃんと風呂敷包んで枕元に置くとすぐ布団に入った。


 ガタッガタガタ

 真夜中、枕元から音がする。どうせ風かと思ったが、あまりにもうるさいので目を開けると、
「こんばんは、道太郎さん♪」
「うわぁっ?!!な、なぜひひ人が?なんで俺の名前を!」
 一気に目が覚めた俺は、枕元でしゃがみこんでこっちを見ている子どもを見る。
「あははは!そんなに驚かなくてもいいのに。ま、細かいことは気にしないで今から言う僕の言葉を信じてね」
「・・・いや。いきなり来られて、信じてねってそりゃ無理だろ」
「そんな断定しないでよ。僕はその銀魔刀の精霊、ラルカイムっていうの。ラルって呼んでね♪」

 もうわけ分からねぇ。きっとこれは夢なんだよな。

「夢じゃないよー。君はね、運命によって僕と出会ったのだよ!ね、だからさ」
 頬を強く叩いた。かなり痛い。心も読めるらしいが・・・これはどうやら夢じゃないらしい。ラルは黄色の髪に見たことがない衣を着ている。一見、外国人の子供だ。
「だからなんだ?」
「僕と一緒に来て。あなたはミルド国へ来てもらいます!僕はそのために来たの♪」
「ちょっと待て。第一、なんで俺なんだ?ってか、お前・・・泥棒とかじゃないだろな?」
「そんなわけないよ♪信じて。僕は、僕である銀魔刀をあなたにこの刀を差し上げます。これにはフェンリルが宿っています」
「ぎんまとう?ふぇんりる??」
「ま、気にしないで受け取って。絶対道太郎の役に立つからさ♪」
 差し出された刀を受け取る。やっぱりわからないが、わかった気がする。ラルの言葉はなぜかそういう気にさせてくれた。
 ラルの手から銀魔刀が完全に離れるとラルの姿はどこにもなかった。
「じゃあ、いくよ!」
「うわぁ!おまえ、どこから声を」
「もぉー言ったでしょ。僕はこの刀の精霊。ま、要するにフェンリルなんだけどね。光属性でさ、結構珍しいんだよ〜。でねでね、この刀から出たり入ったりできる者なの♪」
「・・・説明は嬉しいが、俺はわからないや。とりあえずこれから共にできるんだろ?」
「うん♪」
「なら肌で覚える。で、どこに行くんだ?」
「ミルド国だよ!さっ、行くよ!!」
 ラルの声のあと、周りに白い光が迫ってきて、何も見えなくなっていた。